2025年のいま、私たちが毎日当たり前のように使っているウェブの世界は、静かにそして確実に変わりつつあります。かつて「安全神話」があったインターネットも、GhostRedirectorによる検索操作、GhostActionによるサプライチェーン攻撃、Microsoft NLWebの脆弱性、Dahua製CCTVカメラの乗っ取りなど、驚くべき事件が立て続けに発覚しました。
これらのニュースは単なる“ハッキング”ではなく、私たちの暮らし・ビジネス・社会の土台そのものが揺さぶられていることを示しています。サーバー、クラウド、IoTデバイス……いまやウェブは一枚岩ではなく、無数の部品と仕組みの連携で成り立つ巨大な生態系です。そして、そのどこか一つに小さな穴が空けば、攻撃者はそこから入り込み、システム全体を支配することが可能になってしまうのです。
この記事では、2025年の時事ネタを交えながら、ウェブセキュリティの最前線を深く掘り下げます。単なる事件紹介ではなく、なぜこうした攻撃が成立するのか、そして私たちはどのように備えるべきかを、具体的かつ分かりやすく解説していきます
ウェブセキュリティは今、どこまで“危うく”なっているのか?
ウェブというと、私たちはしばしば「ブラウザで見れるサイト」として軽く捉えがちです。しかしその背後には、サーバー、API、CDN、クラウドサービス、IoTデバイス……と、膨大かつ複雑なインフラがあります。2025年現在、攻撃者たちはこの複雑性を巧みに突いてきており、一般ユーザーも組織も、これまで以上の注意と備えが求められています。
以下に、時事として注目すべき重大なウェブ関連事件・脆弱性・攻撃事例をまとめつつ、それらから読み取れる傾向と教訓を考察します。
注目ニュースと事件簿 ― 2025年ウェブセキュリティの足跡
GhostRedirector:WindowsサーバーがSEOスパムの踏み台に
セキュリティ企業 ESET によるレポートによれば、GhostRedirectorと名付けられた中国ハッカーグループが、2024年12月から2025年中頃にかけて少なくとも65台の Windows サーバーを乗っ取り、Google検索のランキングを不正に操作する悪質なSEOスパムサイトへの誘導に利用していたことが明らかになりました。
この攻撃は典型的な「SQLインジェクション」でサーバーを侵入し、IISへのバックドア「Rungan」と、Googlebotにのみ悪質なレスポンスを返す「Gamshen」というトロイの木馬モジュールを設置するというステップで進められました。結果として、検索結果上でスパムサイトの表示が不当な形で強化されてしまったのです。
教訓と警告:
- ウェブ攻撃は必ずしも「データを盗む」方向ばかりではありません。むしろ「検索順位操作」など、ビジネスに直接的にダメージを与えるタイプの攻撃も増えています。
- 検索エンジンがボット(Googlebot等)を識別してそのみにレスポンスを変える“クローキング攻撃”には要注目。可視化されにくく、攻撃者には都合が良い戦術です。
GhostAction:GitHubのサプライチェーンが狙われた大規模トークン漏洩事件
TechRadar の報道によると、GhostAction キャンペーンと呼ばれるサプライチェーン攻撃が GitHub を舞台に発生し、PyPI や npm、DockerHub、AWS、Cloudflare など複数プラットフォームにまたがって秘密鍵やトークンが盗まれたという事態が判明しました。
攻撃の手口は GitHub Actions ワークフローに悪意あるコードを挿入すること。FastUUID プロジェクトのメンテナーアカウントが侵害され、そこからトークンなどが抽出されていったのです。影響を受けたリポジトリは800以上、合計3,325のシークレットが漏洩しました。
教訓と警告:
- サプライチェーン攻撃は “一見 innocuous だが極めて危険” な側面があります。有名プロジェクトや依存ライブラリは自分でなくとも、環境全体を危険にさらせます。
- GitHub Actions や CI/CD パイプラインを活用している組織は「自前のレビュー体制」や「署名付きコミット」「トークンの不用意な公開防止」を強化する必要があります。
Microsoft の NLWeb プロトコルで“基本的な脆弱性”
Microsoft が「エージェント化されたウェブ(Agentic Web)」構想の一環として開発した NLWeb プロトコル。これは“HTMLの進化形”として大きな期待を集めましたが、パストラバーサル脆弱性により、OpenAI や Gemini の API キーを含むファイルが外部から読み出されうるという問題が発見されました。
問題自体は 2025年7月1日には修正されましたが、Microsoft は正式に CVE を割り当てず、ユーザー側にライブラリの再ビルドを促すのみ。攻撃者にとっては、プロトコルの初期リリースという“期待と興奮”の裏で、意図せぬ“穴”が開いていたというわけです。
教訓と警告:
- 革新と安全はトレードオフであってはならない。特にプロトコルや標準化を目指す仕組みは、“基本的なコモンクラス脆弱性”を潰すことが最重要です(パストラバーサル、ディレクトリトラバーサル、XSSなど)。
- セキュリティ研究者コミュニティやバグバウンティとの連携は不可欠。大型企業でも基本的なレビューが機能していない例を示しています。
Victoria’s Secret による“セキュリティインシデント”によるサイト停
AP News によれば、Victoria’s Secret が米国のウェブサイトを一時停止し、一部店舗サービスを制限するというセキュリティインシデントが発生しました。原因や詳細は未公表ながら、外部専門家と連携した対応が行われたとのこと。
このように、有名ブランドのECや問い合わせプラットフォームが「安全のため突然オフラインにする」という判断を下すケースは増えています。オンライン業務が止まる影響は大きく、リスク管理の重要性を改めて浮き彫りにしました。
Dahua の CCTV 機器がリモートで乗っ取られる重大脆弱性
セキュリティ企業 Bitdefender から発表された情報によると、**Dahua 製の CCTV カメラ 126機種において、認証なしでリモートから遠隔操作が可能な脆弱性(CVE-2025-31700/31701)**が確認されました。
バッファオーバーフローを引き起こすパケットによって、ファームウェア外の悪質なコードを挿入され、持続的なマルウェア感染につながりかねない状況でした。
教訓と警告:
- IoT やカメラなどの“見えない”デバイスの脆弱性もウェブセキュリティの重要な領域です。物理的なセキュリティと密接に関連します。
- 顧客側は早急なファームウェア更新、外部ネットワークからの隔離、UPnP の無効化などを実施する必要があります。
ウェブ脆弱性の全体像と2025年の傾向
これらのニュースを総合すると、現在のウェブセキュリティにおいては以下のような大きな傾向が読み取れます。
1. 脆弱性が増加しているが、対応は後手
Recorded Future の調査では、2025年前半(H1)に報告された CVE 件数は 23,667 件と前年同期比16%増。
うち 161 件が実際に攻撃側によって使われ、42%にはパブリックな PoC(Proof of Concept)が存在します。
さらに、VulnCheck では 1H-2025 に新たに攻撃側によって“野生環境(in the wild)”で利用された CVE が 432 件も確認されており、32.1%は CVE 公表当日に既に攻撃されていたというデータもあります。
要するに、公開された直後に攻撃される脆弱性が増えており、「1クリックで攻撃者に利用される」速度であることを前提に対策すべき時代になっているのです。
2. 公開から利用までのスピードが異常に早まっている
DarkReading の報告によると、2025年は脆弱性公開から攻撃までの時間(Time to Exploit)がより短縮されつつあります。
VulnCheck のデータでも、四半期あたり、公開後1日以内に利用される脆弱性が増加しているとされています。
これはパッチ管理が追いつかなくなる「ゼロデイ」の状態に組織が陥るリスクを急上昇させており、毎日あるいは常時監視・対応が必要という状況です。
3. 高影響 CVE が日常化しつつある
たとえば Microsoft Office や WinRAR、カーネルなど、旧来からあるソフトウェア・コンポーネントの脆弱性が相変わらず多く使われています。Kaspersky の Q2 2025 報告では、UEFI、ドライバー、OS、ブラウザ、ユーザーアプリなどに渡る幅広い領域で脆弱性が確認されており、攻撃者はこうした「使い慣れた」穴を狙っています。
実用ガイド — 現代ウェブセキュリティの防衛戦略
ニュースと調査から浮かび上がるセキュリティリスクへの対策として、組織および個人が取るべき行動を以下にまとめます。
A. パッチ適用の速度を“日単位”へ
旧来の“月1回のパッチ更新”ですら遅すぎる時代です。
- OS やウェブサーバーへの自動更新設定を強化し、Critical パッチは即時対応
- 仮に即時更新が難しい場合には、「緩衝(virtual patching)」や WAF(Web Application Firewall)で防御策を仮設しつつ、本体更新を待つ
B. サプライチェーンの安全確保
GhostAction のような事件を忘れてはいけません。
- CI/CD パイプラインは厳格に管理し、アクセスは最小限に
- GitHub Actions 等で外部コードや依存を取り込む際にはセキュリティスキャン/静的解析を自動で走らせる
- シークレット、APIキー等は Vault 等に安全に保管し、漏洩を防ぐ
C. クラシック脆弱性へ“再び注目”
パストラバーサル、SQLインジェクション、XSS、CSRF、バッファオーバーフロー……これらは“古典”と言われても未だに頻出しています。
- OWASP Top 10 や CWEリスト、CISA の Known Exploited Vulnerabilities(KEV)などを参考に、定期的な診断を実行
- API やフロントエンドバックエンドをまたいだセキュリティレビューを強化
D. IoTデバイスや小型機器の“見えないポート”に注意
Dahua の脆弱性からも分かる通り、CCTVや家庭用ルーター、IoT機器は“盲点”になりがちです。
- ネット経由アクセスは禁止に近いレベルで制限し、必要なら VLANやセグメントで隔離
- UPnP をオフ、パスワードは強化、ファームウェアは必ず最新に
E. ログと監視体制の構築
何よりも重要なのは、侵害の「検知」であり、侵害されてからの対応の速さです。
- SIEM(Security Information and Event Management)を導入し、異常なアクセスやレスポンス改ざんなどをアラート化
- Googlebot などのボット向けのレスポンスのモニタリングや、クローキングを検出する仕組みも考える
ケーススタディから学ぶ4つの教訓
- GhostRedirector の教え
時間をかけてSEO操作が行われる攻撃には注意。検索エンジンの挙動をターゲットにする攻撃も見落とすな。 - GhostAction の教え
開発フローのどこが弱点か?CI/CD、リポジトリ、Workflows に脆弱性があったら全体が破綻する。 - NLWeb 脆弱性の教え
革新的プロトコルにも基本は必要。セキュリティレビューや外部監査を通さない“新しいもの”ほど危険。 - Dahua の教え
目に見えないデバイスもWebの一部。IoTやエッジ機器には特に強固なセキュリティが必要。
未来展望 — ウェブセキュリティの次のステージ
- AI/機械学習を用いた“ボットの振る舞い検知”や“疑似Googlebot識別”の開発が加速するでしょう。
- WebAssembly や Edge computing の普及により、新たな攻撃面(例:CSP bypass、Rustバインディングの脆弱性など)も急浮上しています。
- 政府規制も強まり、米国では FTC(連邦取引委員会)が Microsoft への“粗雑なセキュリティ慣行”の調査を要請。Windows の既定設定や暗号技術(RC4)の遅すぎる廃止が問題視されています。
ウェブセキュリティを“甘く見る”ことへの最後通牒
ウェブは日々進化し続け、その裏で脅威もますます巧妙になっています。サーバーを「ただの箱」と見なすのはもう許されない時代。GhostRedirector、GhostAction、NLWeb、Dahua……どの事例も、ウィークポイントをついた攻撃が“すぐそこにある”ことを教えてくれます。
セキュリティはコストではなく、未来への投資だという認識を持ってください。組織でも個人でも、今日ここに書かれた教訓から学び、行動へと移すことが次のセキュリティを守る礎になります。
もし具体的に「自社サイトが心配」「WordPressプラグインの危険性を知りたい」「IoTデバイスどう守ればいい?」などあれば、お気軽にご相談ください。さらに掘り下げた解説や対策案もご提供可能です。



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