「日本は安全」という思い込みが、最大の脆弱性だった
2025年を振り返ると、日本のサイバーセキュリティーを巡る状況は、はっきり言って楽観できる段階を完全に過ぎたと言えます。
それでもなお、多くの現場では「うちは狙われない」「大企業じゃないから大丈夫」「今まで問題なかった」という言葉が、日常的に使われ続けています。
これは技術力の問題ではありません。
リテラシーの問題です。
実際、日本は世界的に見ても「ITインフラは高度だが、運用と意識が追いついていない国」として、攻撃者から非常に都合の良い存在になっています。2025年は、その弱点が集中的に突かれた一年でした。
このコンテンツでは、
- 2025年に日本で何が起き、何が露呈したのか
- なぜ同じ被害が繰り返されるのか
- 2026年に向けて、本当に注意すべきポイントは何か
を、専門用語に逃げず、「経営者・担当者・一般利用者が自分事として理解できる」視点で整理していきます。
2025年、日本で顕在化した「5つの致命的な甘さ」
フィッシングは「巧妙化」ではなく「日常業務化」した
2025年、フィッシング被害はもはや「騙された」というレベルではなく、
「普通に業務をしていたら踏んでいた」
という段階に入りました。
特に目立ったのが以下のパターンです。
- 実在企業名+実在部署名+実在担当者名を組み合わせたメール
- Teams / Slack / Google Drive など、業務ツールを装った通知
- 「至急」「本日中」「未対応」の心理圧迫ワード
これらは、従来の「怪しい日本語」「明らかなURL」ではありません。
正規の業務フローと区別がつかないのです。
多くの日本企業では、
「怪しいメールに注意しましょう」という啓発で止まっていますが、
2025年時点ではそれはすでに機能しません。
ランサムウェアは「大企業向け」ではなくなった
2025年に多発したのは、中小企業・医療機関・学校・地方自治体への攻撃でした。
理由は明確です。
- セキュリティー専任者がいない
- バックアップが「あるつもり」で動いていない
- 古いVPN・NAS・RDPが放置されている
攻撃者にとっては、
「守りが弱く、支払い能力はある」
という、最もコスパの良い標的です。
ここで重要なのは、
被害が公表されないケースが非常に多いという点です。
表に出ていないだけで、2025年は「実質的な被害数」は統計の数倍に達していると見られています。
クラウド=安全、という誤解
AWS、Azure、Google Cloud を使っているから安全。
これは2025年でも、日本で最も根強い誤解の一つです。
実際に問題になったのは、
- ストレージの公開設定ミス
- APIキーのGitHub流出
- IAM権限の過剰付与
つまり、クラウドそのものではなく、設定と運用の問題です。
クラウドは「魔法の箱」ではありません。
責任共有モデルを理解していない限り、オンプレより危険になるケースすらあります。
「パスワード文化」から脱却できなかった日本
2025年になっても、
- 同じパスワードの使い回し
- 社内共有パスワード
- Excelで管理されたID一覧
が、普通に存在しています。
一方、攻撃側はすでに
パスワードを突破する前提で設計しています。
つまり、
「パスワードが漏れること」を前提に守れない組織は、
時間の問題で侵入されるということです。
インシデント対応は「技術」より「文化」で差が出た
2025年に被害を最小限で抑えられた組織には、共通点がありました。
- 隠さず、すぐに共有する
- 現場判断で遮断できる権限がある
- 失敗を責めない文化がある
逆に被害を拡大させた組織は、
- 上司の承認待ち
- 報告をためらう空気
- 「誰の責任か」を探し始める
セキュリティーは文化の鏡であることが、2025年ほど明確になった年はありません。
なぜ日本は「学んだはずなのに」繰り返すのか
形式主義の罠
日本では、
- 年1回のeラーニング
- チェックリストの確認
- 形だけの監査対応
が「やったこと」になりがちです。
しかし攻撃者は、
人が慣れた瞬間を狙います。
形式は整っていても、
「考える力」が育っていなければ、意味はありません。
「専門家に任せればいい」という思考停止
セキュリティーは専門領域です。
しかし、丸投げしてよい領域ではありません。
2025年に起きた多くの事故は、
- 設計時の意思決定
- 運用ルールの妥協
- 業務優先の例外対応
といった、非技術的な判断が引き金になっています。
被害を語らない文化
日本では、被害を公表すると、
- 評判が落ちる
- 責任を問われる
- 顧客が離れる
という恐怖が先に立ちます。
結果として、
社会全体で学習が進まない。
この構造自体が、
日本全体のセキュリティーレベルを下げています。
2026年に「特に注意すべき」現実的な脅威


AIを使った“個別最適化詐欺”
2026年に向けて最大の変化は、
攻撃が完全にパーソナライズされることです。
- 過去のメール履歴
- SNSの投稿
- 会社のWebサイト
これらをAIが分析し、
「その人が信じやすい文面」を自動生成します。
もはや「怪しいかどうか」では判断できません。
音声・動画を使ったなりすまし
すでに海外では、
- 社長の声で送金指示
- 上司の顔でビデオ会議参加
といった被害が現実化しています。
日本は「声」と「立場」を信じる文化が強いため、
特に相性が悪い。
サプライチェーンの弱点を突く攻撃
自社が強固でも、
- 委託先
- 開発ベンダー
- SaaS事業者
のどこかが破られれば、影響を受けます。
2026年は、
「自分の会社だけ守る」という発想が通用しません。
セキュリティー事故=経営リスクの時代
2025年以降、
インシデントは「技術トラブル」ではなく、
株価・採用・取引に直結する経営問題になりました。
対応を誤れば、
- 顧客離れ
- 取引停止
- 人材流出
が一気に起こります。
今すぐ見直すべき「考え方」の優先順位
ここで重要なのは、
高価なツールを入れることではありません。
優先すべきは、以下の順番です。
- 「漏れる前提」で考える
- 人に依存しない仕組みを作る
- 迷ったら止められる権限を与える
- 失敗を共有できる空気を作る
これができない限り、
どんな最新技術も「飾り」に終わります。
セキュリティーは「怖がるもの」ではない
セキュリティーという言葉は、
不安や恐怖を煽りがちです。
しかし本質は違います。
「普通に仕事を続けるための基盤」
それがセキュリティーです。
2025年、日本は多くの失敗を経験しました。
それは同時に、学べる材料が大量に揃ったということでもあります。
2026年、
「何も起きなかった会社」と「立ち直れなかった会社」の差は、
今このタイミングで、どれだけ現実を直視できたかで決まります。
安全神話を捨て、
「備えるのが当たり前」の社会へ。
それが、日本が次に進むために、
どうしても必要な一歩です。


コメント